適応基準や注意点、費用などについて解説
私たちが訪問している中で、在宅酸素をされている方に出会うことがあります。
肺や心臓にダメージを受けた方にとって必要不可欠な在宅酸素療法ですが、
注意点などはご存知ですか。
今回は、在宅酸素療法とは何か、というところから注意点や費用まで詳しくお伝えします。
在宅酸素療法をされている方や肺や心臓に疾患をお持ちの方は、ぜひ参考にしてくださいね。
在宅酸素療法(HOT)とは?
在宅酸素療法(HOT)とは、在宅で酸素を吸入する治療のことです。
たまに、街中で酸素ボンベを引っ張って歩いている方を見かけたことはありませんか。あの様子が在宅酸素療法です。
呼吸だけで充分な酸素を取り込めなくなった時に、機械を使用し高濃度の酸素を吸入することで、体内への酸素の取り込みを補助します。
在宅酸素療法には、「酸素濃縮装置」を使用する方法と、「液化酸素装置」を使用する方法
の2種類があります。
それぞれのメリット・デメリットは以下の通りです。
|
メリット |
デメリット |
酸素濃縮装置 |
操作が簡単 |
電力が必要 携帯用酸素ボンベが重い |
液化酸素装置 |
電力が不要 |
子容器(携帯用)への酸素の充填操作が複雑 |
在宅酸素療法が必要な理由は?
人は生きるために酸素を必要とします。
内臓や筋肉など、身体の各臓器を動かすためには酸素が必要不可欠です。
酸素が不足すると身体の各臓器の機能が低下し、また、心不全や脳卒中などの合併症も引き起こしやすくなるため、寿命が短くなると言われています。
在宅酸素療法の適応は?
在宅酸素療法は健康保険が適応されます。
適応基準としては、「在宅酸素療法導入時にPaO2 55mmHg以下の者およびPaO2 60mmHg以下で
睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす者であって、医師が在宅酸素療法を必要であ
ると認めたもの」です。
PaO2とは、動脈血酸素分圧のことを言い、血液中の酸素量を示します。
動脈血酸素分圧は、健康な若年者で100 mmHg、健康な高齢者で80 mmHg程度あり、
在宅酸素療法が適応になる状態では、酸素は身体に必要な量の半分程度しか取り込まれていないこ
とになります。
身体はかなりの酸素不足に陥っていると言えるでしょう。
動脈血酸素分圧が低下する原因は?
呼吸器疾患や心疾患が主な原因です。
呼吸器疾患:慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺気腫、間質性肺炎、肺がんなど
心疾患:慢性心不全(心臓弁膜症、不整脈、心筋症など)
COPDや肺気腫などの呼吸器疾患では、肺にダメージを受けるため、体内に酸素を取り込む機能が低下します。また、取り込んだ酸素をうまく回せなくなる心疾患も在宅酸素療法の適応となります。
在宅酸素療法の効果は?
在宅酸素療法の効果には、以下のものがあります。
- 息切れ・動悸の改善
- 歩行距離が延びる
- 心臓などの臓器への負担軽減
- 記憶力・注意力の低下の軽減
息切れや動悸が軽減し、歩行距離が延びることによって生活が活発化します。
「苦しくて歩けない→外出できない→自宅に引きこもる」という負のスパイラルによって下肢の筋力が低下し、さらに歩けない身体になってしまいます。
そうならないために、在宅酸素療法によって身体に酸素を補ってあげることが重要なのです。
身体の各臓器を動かすために酸素は必要不可欠ですが、それは脳にも言えることです。
低酸素血症に陥ることで脳への酸素が不足し、脳の働きが低下します。ボーっとする、
物忘れが増えるなどの症状が出てきてしまいます。
注意点は大きく3つあります。
- 自己判断で酸素の投与量を変えないこと
- 火気に注意すること
- 定期的に受診すること
以下で詳しく説明します。
自己判断で酸素の投与量を変えないこと
酸素の投与量は医師の指示を守らなければなりません。
多ければよいというわけではなく、高濃度の酸素を吸入することによって合併症を引き起こす可能性もあります。
合併症としては、酸素中毒やCO₂ナルコーシスなどが挙げられます。
酸素中毒とは、高濃度の酸素を投与することで、大量に活性酸素が発生し、
気道や肺を障害することです。
胸痛や進行性の咳が生じた時は酸素の投与量を確認しましょう。
CO₂ナルコーシスとは、二酸化炭素が体内に蓄積され、意識障害などの中枢神経症状が現れることを言います。
CO₂ナルコーシスのメカニズムは、こうです。
元々肺機能が低下しているなどで身体が慢性的に二酸化炭素の多い状態にあると、身体は二酸化炭素濃度に反応しにくくなり、酸素濃度に反応するようになります。
身体が酸素濃度に反応するようになると、高濃度の酸素を投与した時に、身体は酸素が充分にある状態だと認識してしまい呼吸抑制が起こるのです。
その結果、体内に二酸化炭素が蓄積し、意識障害などのCO₂ナルコーシスを起こすことになります。
火気に注意すること
酸素は燃焼を助ける性質があるため、酸素投与時に火気を使用すると大変危険です。
事実、酸素投与時のたばこ使用による事故やガスコンロへの引火の事故が起こっており、
厚生労働省のHPにも注意喚起されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000003m15_1.html
「厚生労働省:在宅酸素療法時の下記の取り扱いについて」
以下の点にくれぐれも注意しましょう。
- 酸素濃縮装置等の使用中は、装置の周囲2m以内に火気を置かない
- 酸素吸入時には喫煙しない
たばこの火だけでなく、仏壇のろうそくや線香の火、ストーブなどにも注意が必要です。
在宅酸素は、正しく使用することが重要であり、医師や医療機器メーカーの指示に従って安全に使用しましょう。
定期的に受診すること
在宅酸素療法には健康保険が適応され、そのためには月1回の定期受診が必要になります。
定期受診は在宅酸素療法を保険診療にする目的だけでなく、身体状態の管理という目的が大きいです。
定期的に主治医に診てもらい、酸素投与量の指示を受けましょう。
在宅酸素療法の費用は?
在宅酸素療法には健康保険が適応されるため、医療機関の窓口では自己負担分を支払う必要があります。
例えば、酸素濃縮装置を使用した場合の診療費(医療機関の診療報酬)は以下の通りです。
液体酸素装置を使用した場合も同等だとすると、1割負担の方の自己負担額は、7,671円です。2割負担の方はその倍、3割負担の方はその3倍かかることになります。
医療費の自己負担を軽減させるために高額療養費制度や身体障害者手帳による助成制度、老人保健法による給付などがあります。
病院や自治体に相談して積極的に利用しましょう。
まとめ:在宅酸素療法は生活を活発化させ、生活の質(QOL)を向上させます!
肺や心臓の病気等で息切れや動機が激しいと、動くことが億劫になり生活が不活発化してしまいます。
身体に酸素を補ってくれる在宅酸素療法を行うことにより呼吸が楽になり、スムーズに動けるようになることで生活の質(QOL)が向上します。
外出しようという気持ちも高まっていくのではないでしょうか。
医師の指示の元、安全に使用し、各種医療費の助成を受けることでできるだけ経済的な負担の軽くして在宅酸素療法と付き合っていきましょう。