痰を出しやすくする方法について教えます
在宅において、脳血管疾患や神経難病などにより自力で痰をうまく出すことができず、吸引を必要とする方が多くおられます。
排痰ができないと、不快感だけでなく、息苦しさや呼吸困難にもつながります。
呼吸困難を防止するために必要不可欠な痰の吸引ですが、苦痛を伴うことは明らかです。
そこで今回は少しでも苦痛を和らげるために、痰を出しやすくする方法についてお伝えします。
在宅で痰吸引を必要とする方の、ご家族のみなさまの参考になれば幸いです。
痰を出しやすくする方法は?
痰を出しやすくするための必要な要素は以下の3点です。
- 重力
- 痰の粘性
- 空気の量と速さ
それでは、詳しく見ていきましょう。
痰を出しやすくする要素①重力
痰は重力により下に流れるため、痰が溜まっている部分を上にすることで痰を末梢気道から中枢気道へ移動させ、排痰を促します。
右肺側に痰が溜まっている時は右側を上にした横向きの姿勢(左側臥位)を、左肺側に痰が溜まっている時は左側を上にした横向きの姿勢(右側臥位)を取らせます。
長時間、仰向きで寝ていると背中側に痰が溜まりやすいため、たまに腹臥位(うつ伏せ)の姿勢にすることも効果的です。
体位変換により排痰を促す方法を、「体位ドレナージ」といいますが、この際、鼻や口がふさがらないように注意しましょう。
ここで押さえておきたいポイントが一つ。
人間は心臓がやや左側に位置しているため、右側の気管支の角度の方が左側の気管支に比べて浅く、右肺側に痰が溜まりやすいという特徴があります。
そのため、左側を下にした(左側臥位)を基本に、やや前方に倒したり後方に倒したりする姿勢が一番効果的だとされています。
枕やクッションなどを背中や胸に敷いて、前方(後方)約60度の側臥位を保ちましょう。
痰を出しやすくする要素②痰の粘性
痰がネバネバしすぎていたり固すぎたりすると、痰が排出されにくくなります。
そのため、痰の粘性を適度に保つことが大切です。
では、痰の粘性を適度に保つためにはどうすればよいのでしょうか。
ポイントは以下の2点です。
- 身体の水分バランスを整えること
- 湿度を一定に保つこと
身体の水分バランスを整えること
身体がカラカラの状態では、痰も粘度が上がり固くなります。
すると気道粘膜のせん毛運動がうまく働かなくなり、痰が排出されにくくなります。
身体が脱水に傾かないように、適切に水分補給を行うことが大切です。
湿度を一定に保つこと
身体に優しい湿度は60~70%です。
乾燥すると気道粘膜が働きにくくなったり痰の粘度が増したりするだけでなく、感染症にもかかりやすくなります。
呼吸器感染症の多くは乾燥した空気を好むため、空気を乾燥させないことが重要です。
ネブライザーや蒸気吸入も排痰に効果的です。
痰に水分を含ませ柔らかくすることで、痰が移動しやすくなります。
痰が中枢気道まで移動すれば、後は強く咳をすることで排出することができるため、1回10分~15分を目安に蒸気吸入を行いましょう。
痰を出しやすくする要素③空気の量と速さ
空気の量と速さとは「咳」の力のことです。
本来人間は、痰や異物を排出する時には強く「咳」をすることで排出します。
咳は防御反応の一つであり、この力を保つことが大切です。
しっかりと強い咳をするためには、①しっかり空気を吸うことができること②声帯の機能が維持されていること③息を吐くために腹筋などの筋力があること、の3つの条件が必要とされています。
強い咳をするための訓練は?
強い咳をするための条件として、「しっかり空気を吸う」ことが挙げられます。
「しっかり空気を吸う」ためには、肺の柔軟性を保つ必要があり、そのための訓練としては「深呼吸」が効果的です。
「はぁ~」と最後まで息を吐き切ることで強い吸気を促し、肺をしっかり膨らますことができます。
さらに、強い咳をするために必要な腹筋の力ですが、これは排便をする上でも欠かせません。
便秘を解消し、排便コントロールを図るためには、しっかりと腹圧をかけること(腹筋の力)が必要なのです。
寝たきりの方の場合は、仰向けの姿勢のまま膝を三角に曲げ、左右に動かす体操を行うだけでも腹筋の維持に効果があります。
そして、寝たきりの方は咳嗽能力が低下している場合がありますので、息を吐く時に腹壁を圧迫し、咳嗽介助をしてあげてもいいでしょう。