適応基準や在宅での注意点などについても解説
胃ろうと聞くと「寝たきり」や「延命治療」のイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。
あまりいいイメージをお持ちでない方が多い印象を受けます。
胃ろうについて正しい知識を持っておかないと、自分や家族に胃ろう造設の判断を迫られた時、納得のいく選択をすることができません。
そこで今回は、胃ろうのメリットやデメリット、適応基準や在宅での注意点など、胃ろうについて詳しくお伝えします。
胃ろうとは
「胃ろう」は、胃に穴をあけて専用のチューブを挿入し、直接栄養剤を注入する方法です。
食事を口から食べることが難しく、充分な栄養を摂取することができなくなった方に対して「胃ろう」が造設されます。
胃ろうの適応基準は以下の通りです。
- 必要な栄養を自発的に摂取できないこと
- 消化機能(腸)が正常であること
- 経管栄養が長期にわたること
では、胃ろうの適応基準について詳しく見ていきましょう。
必要な栄養を自発的に摂取できないこと
脳血管疾患や咽頭部の腫瘍などにより、食べたり飲み込んだりする機能に問題がある場合や、認知症などで自らすすんで食事をすることが難しい場合などが該当します。
少しは口から食べることはできるけれど、それだけでは生命を維持するだけの充分な栄養が取れない場合も胃ろう造設が考慮されます。
消化機能(腸)が正常であること
そもそも腸が正常に動いていないと、胃ろうを造設することはできません。
消化機能が正常でない場合は、静脈に直接栄養を入れる(経静脈栄養)が選択されます。
腸は使わないと機能がどんどん低下します。長い期間、経静脈栄養をしていて消化器の機能がさらに低下した、という事象もあるのです。
胃ろうや経鼻栄養などの経管栄養は、自らの消化機能を維持するための処置ともいえます。
経管栄養が長期にわたること
経管栄養とは、点滴と異なり、消化管(腸)を通る栄養方法のことです。
経管栄養には、鼻から胃へチューブを入れて栄養を注入する方法(経鼻栄養)と、胃ろうの2種類があります。
短期間の場合は、経鼻栄養を、4週間以上の長期になる場合は胃ろうを選択します。
胃ろうのメリットは?
次に胃ろうのメリット・デメリットについて見ていきましょう。
胃ろうのメリットは以下の点が挙げられます。
- 不快感が少ない
- 必要な栄養を摂取できる
- 口からの食事も可能
- 胃ろう造設により生活に制限が生じない
胃ろうのメリット①不快感が少ない
鼻からチューブを入れる経鼻栄養と違って、痛みや不快感が少ないのが特徴です。
認知症の方の場合、不快感から経鼻栄養のチューブや経静脈栄養のルートを抜去してしまうことがあります。
その点、お腹に作る胃ろうの場合、目立ちにくく、痛みや不快感が少ないため、自分で抜去してしまうおそれが低いのが利点です。
胃ろうのメリット②必要な栄養を摂取できる
経口で摂取できる食事量が少なくなると、体にとって必要な栄養分が足りなくなってしまいます。
すると、体力や筋力が低下し、さらに寝たきりへと進んでしまうことになります。
寝たきりの状態を予防するため、胃ろうにより必要な栄養を補い、体力や筋力を維持することも必要です。
胃ろうのメリット③口からの食事も可能
胃ろうを造設しても経口摂取は可能です。
口から食べることは人間の生理的欲求であり、喜びです。
誤嚥しない程度に好物を食べることや、嚥下訓練を行うこともできます。
最終的には胃ろうを閉じ、経口摂取だけで充分な栄養を摂ることをできるようになるのが理想です。
胃ろうのメリット④胃ろう造設により生活に制限が生じない
胃ろうを造設しても、普段通りに入浴することが可能です。
ビニール袋やガーゼ等で胃ろう部分を覆って入浴する必要もなく、介護者にとっても楽に入浴させることができます。
また、服を着れば胃ろう部分も目立たないので、外出時に人目を気にすることもありません。
胃ろうのデメリットは?
胃ろうのデメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- 手術が必要
- 皮膚トラブル
- 定期的なカテーテル交換が必要
胃ろうのデメリット①手術が必要
胃ろうを造設するには手術が必要です。
内視鏡を使って短時間で済む手術とはいえ、体への負担はあります。
体に傷をつけることへの抵抗感を感じる方も多いでしょう。
しかし、胃ろう造設のために一度穴を開けてしまったら、一生穴が開いたままというわけではありません。
胃ろうが必要なくなったら、閉じることも可能です。
胃ろうのデメリット②皮膚トラブル
免疫力が低下してくると、胃ろう周囲の皮膚が赤くなる、腫れる、ただれるといった皮膚トラブルが生じることがあります。
胃ろう周囲の皮膚の観察と、清潔保持が大切です。
入浴や清拭で常に皮膚を清潔に保ちましょう。
胃ろうのデメリット③定期的なカテーテル交換が必要
カテーテルを定期的に交換する必要があります。
胃ろうに使用するカテーテルの種類によって交換頻度は異なりますが、バルーン型で1~2か月に1回、バンパー型で4~6か月に1回の交換が必要です。
交換に係る費用(約1万円~2万円程度)も必要になるため、手間と経済的な面で負担がかかります。
胃ろう造設した場合の在宅ケア
胃ろうを造設して在宅で生活されている方は多くおられます。
在宅で注意することについてまとめました。
栄養剤注入時の温度や速さ、体位に注意しよう
栄養剤を注入する際の温度が低かったり速度が速かったりすると、下痢になるおそれがあります。
また、寝たまま注入すると食道の方へ逆流し、誤嚥を起こす可能性もあります。
胃ろうによる経管栄養を行う際は、上体を30度~90度に起こし、注入後30分~1時間は上体を起こしたままにしましょう。
誤嚥性肺炎は高齢者の方にとって、死亡リスクの高い疾患です。
介護者の方は、栄養剤注入時にむせはないか、注入後に熱はないか、ぐったりしていないかなどに注意して観察することが大切です。
胃ろうによる経管栄養も、食事をするのと同じであると捉えましょう。
正しい姿勢で、適度な温度の物をゆっくり食べるといったように、食事と同じであることを意識すれば、注意するポイントが分かりやすいのではないでしょうか。
毎日欠かさず口腔ケアを行いましょう
胃ろうを造設して口から摂取する機会が減ると、口腔内が不潔になりがちです。
唾液の分泌量が減ることで細菌が繁殖しやすい環境になり、誤嚥性肺炎や歯周病、全身疾患のリスクが高まります。
経口摂取が減ってきた方ほど、口腔ケアの重要性を意識する必要があるのです。
歯磨きやガーゼで口腔内をぬぐう、口をゆすぐなどを心がけましょう。
衛生管理に気をつけましょう
栄養剤注入の容器やカテーテルは洗浄し、乾燥させ、清潔に管理することが大切です。
感染症や食中毒予防のために、胃ろうの用品は清潔に扱いましょう。
まとめ:胃ろうに関する正しい認識を持ちましょう
胃ろうに関しては、「寝たきりの人に作るもの」「作ったら死にたくても死ねない」など、ネガティブなイメージが先行しているようです。
しかし、術後一時的に胃ろうを造設することや、体力向上のために胃ろうを造設することもあります。
嚥下訓練を行うことで、胃ろうから脱却し、経口摂取のみになることも可能です。
もちろん、胃ろうは造設せずに、自然のまま亡くなりたいという思いを持つことも自由です。自分や家族が胃ろうを造設する状態になった際に、どんな選択をするか。
「胃ろう」について、ご家族で話し合ってみるのも大切なことですね。