「認知症」と言っても様々な型があり、型による特徴があります。
一般的に大別されているもの以外にも糖によるもの等もあります。
認知症と同じ症状を呈するも、異なる原因がある場合もありますし、中には外科手術によって治療可能なものも含まれます。
今回は最も患者数が多いとされる「アルツハイマー型」についてお話しします。
認知症による症状とそれ以外
認知症には認知症によって直接的に引き起こされている症状と、それに何らかの要因が加わって起こされる症状があり、前者を「中核症状」といいます。
短期記憶障害、見当識障害、失行、失認、失語、実行機能障害です。
アルツハイマー型では他の中核症状よりも、短期記憶障害が最も早い段階で現れます。
理由は脳の側頭葉にある海馬から萎縮が始まるからです。
海馬は短期記憶や記銘を司るところです。
認知症による短期記憶障害の特徴は、人の記憶を1本の時間軸に見立てた時、時間そのものがその軸から消失している状態である為、人からヒントやその間に起こった出来事そのものを詳細に指摘されても、ご本人の時間軸からその記憶が消失しているので、思い出すことは出来ません。
体験そのものが本人からすっぽ抜けていると思って下さい。
逆に、ヒントや詳細な出来事を提示されて思い出せるのは、健忘といい多かれ少なかれ若い人でもあります。
但し、詳細な出来事を提示された時に、恥をかきたくない・話を合わせておこう・思い出せないことを認めたく無い、等の心理が働き、さも思い出したかのように接する方もいらっしゃいますので、そこは鑑別が必要です。
短期記憶障害があるから適当に接しても大丈夫、とは思わないで下さい。
短期記憶障害があっても、感情を障害されているわけではなく、人は不快感や快感は記憶に残りやすいです。
理由は快感や不快感を司る扁桃体という部位が海馬に近く、相互に作用するからです。
適当だったり不遜に扱われたりし続けていると、朧げながらも顔を見て不快感を想起するようになり、後の対応が困難になる可能性があります。
ある人が対応すると不穏になりやすいというのは介護現場では決して珍しくありません。
自分に置き換えて考えてみてください。何故だか分からないけれども急に不快感を感じ、それを解消する方法も分からない。非常にストレスフルな状態ですね。
見当識障害は、漢字の通り見当識が障害される状態です。
見当識は今何時か、ここはどこか、相手は誰か等の見当を識別するものです。
ものすごく寝過ぎて起きた時に、一瞬どこに居て何時か分からない状態になったことはありませんか?
その状態を考えてみると分かりやすいと思います。
その状態が一瞬ではなく断続的に続いているものと思って下さい。
不安で仕方ないと思います。
時計は幾つか配置し、アナログな針のものより、デジタル表示のものの方が良いです。
理由は、感覚器から得た情報を統合して判断を下す頭頂葉に病変が及ぶと、立体的に物を捉えにくくなり、平面で認識するようになるからです。
遠近や重なりを歪んで認識するようになるとデジタル表示の方が見やすいですね。
場所では色で行き先がわかるようにしたり、誰某の部屋等掲げたりする事で屋内では問題無くなる方もいます。
問題は屋外です。
場所の見当識障害がある場合、自宅から200メートル程度しか離れていない場所であっても、道順を組み立てて戻る事は出来ません。
このご時世で昔より難しいとは思いますが、近所の方と普段からコミュニケーションを取っておいたり、地域によっては自治体などの見守りサービスを利用したりといった対応を重複的に行った方が、より見守る目が増えることに繋がり安心です。
失行とは、視覚、・聴覚・触覚・嗅覚・味覚に障害がないにも関わらず、ある動作を行えない症状です。
例えば、通常見えており触る感覚もあれば服を着ることが出来ますが(ここでは関節可動域の制限などの身体機能的な原因は考慮しないものとします)、視覚も触覚も正常であるのに着る動作ができないだとか、物の名前・使い方・何の為のものか説明することは出来るが、いざ使おうとすると突拍子も無い行動をする、といった周囲からすると不明な行動に見えやすい類のものですね。
人は理解の範疇を超えるものを恐れたり、それが人の言動であると訝しみ怒ったりする傾向があります。
ご家族であれば昔の威厳ある親のこのような姿は見たくないとの心理もあるでしょうし、やもすると軽く叱責してしまうかもしれません。
しかしご本人にはふざけるつもりは無く、認知症による行動ですので、叱責はやめて下さいね。
失行は行動でしたが、失認は認識です。よく言われるのは半側空間無視や相貌失認というものです。左右どちらかの半側空間にあるものは見えているものの、認識できない。或いは人の顔以外ははっきり認識するものの、あらゆる人の顔が認識できない状態です。
半側空間無視であれば物を反対側に置いてあげる等で少しばかりは回避できると思います。
相貌失認は、ご家族や介護職員でも数年気づかない事もあります。
実行機能障害は物事や行動を順番に組み立てられない症状です。
例えば料理。料理の材料と道具を渡して作ってと言われても作れないが、次は野菜を切って、(切り終わった時点で)鍋に入れて等、必要な一連の動作を噛み砕いて、逐一次は何をすれば良いのか声を掛けると、動作自体は可能ですから、完遂できます。
失語は言葉を話すことが出来ない状態です。
失語には2種類あり、1つは言語野に病変が及び、言語そのものを喪失している状態で、口から発するのは言葉ではなく音の羅列でしかありません。言葉を理解されない為、言語的コミュニケーションは取れません。
もう1つの方は、口の筋肉を動かす運動野に病変が及んだことによるもので、口を上手く発音に適した形にし難い又は出来ない事による発語困難の状態です。
こちらはあくまでも運動野の問題で、言語野は喪失しておらず、こちらの言っている事を理解できるので、筆談で対応すると言語的コミュニケーションを取ることが出来ます。
私がよくお伝えするのは、「常識的・普通・自分の理解の範疇」この3つの枠を取っ払って下さいという事です。
主体はこんな言葉ではなく認知症の人その方です。この3つのものに押しはめて判断したり接したりするのではなく、認知症の人自身を中心に据えることで自ずと接し方は異なります。
言葉で伝えるのは簡単です。
ですが日々実践するとなると難しい。
終わりが見えないし、少なくても目に見えて成果が出るなどの報われる事は少ないですからね。
介護保険サービス提供の対価にお金を受け取っている職業介護人でも難しいのです。
ご家族様も人間ですから、気分が落ち込み塞いでいる時や機嫌が悪い時、しんどい時や誰かに助けてほしい時もあるのが普通だと思います。
そんな時は是非周りに助けを求めて下さいね。
公的介護サービス以外にも自治体での取り組みなどもあり、同じ環境の人に話を聞いてもらうだけでも、気が晴れるかもしれません。
最後に少しアルツハイマー型認知症の現況をお話しします。
進行の特徴としては、側頭葉→頭頂葉→前頭葉の順に進行し、後頭葉は単独では比較的病変が及ばないとされています。
レコード法という方法で、進行を止めた医師が米国に1人いらっしゃいますが、基本的には非常に緩徐ではあるものの進行し続けるものです。
アルツハイマー型認知症の発症原因は、あるタンパク質が脳に異常蓄積する事で発症するとされています。
人はこのタンパク質を膵臓の内分泌腺のβ細胞から出すインスリンで分解し、排出しています。
世界規模ではアルツハイマー型認知症になりやすい遺伝子の特定がされています。
その遺伝子を幾つ受け継いでいるのか、調べる事も可能のようです。